小児腎臓病の森 No.4~常染色体劣性アルポート症候群にもRAS系阻害剤を早期に使用したほうが良い

アルポート症候群は、家族性の血尿や難聴、白内障がみられ、末期腎不全に至る可能性がある注意すべき病気です。特に常染色体劣性型は最も重症とされ、20歳台で末期腎不全になりやすい病型です。この病気の治療薬として、RAS系降圧剤が報告されてきましたが、対象患者が少ない研究ばかりでした。今回、101名の中国と欧州の患者を解析した研究が報告されましたので紹介します。Pediatric Nephrology volume 36pages2719–2730 (2021)

患者年齢は中央値15歳(1.5-46歳)でした。12名は20.5年で末期腎不全(ステージ5)になりました。軽症とされるミスセンス遺伝子変異のある患者に比べて、ミスセンス変異ではない患者のほうが、難聴や大量の蛋白尿が高い確率で、かつ早期に生じており、腎機能低下も早い時期に生じていました。

78%の患者がRAS系降圧剤を使用されており、その開始年齢は10歳(中央値)で、平均使用期間は6.5±6.0年でした。
RAS系降圧剤を使用しなかった患者は、24歳で末期腎不全になっていました。

RAS系降圧剤にて治療した患者を4つの群にわけて検討されました。
T-0は、わずかな血尿のみから治療を開始した群
T-Iは、わずかな蛋白尿(微小アルブミン尿症)から治療を開始した群
T-IIは、タンパク尿および腎機能が正常の60%以上で治療を開始した群
T-IIIは、腎機能が正常の60%未満で治療を開始した群

RAS系降圧剤を開始することで、腎機能障害を有する患者(T-III)の患者が末期腎不全になる年齢を35歳に遅らせました。微小アルブミン尿症(T-I)で治療を開始した患者は、末期腎不全には進行しませんでした。遺伝学的には、ミスセンス遺伝子変異のある軽症とされる患者は、そうでない患者に比べてRAS系降圧剤に対して治療効果が良い結果でした。

これらのことから、遺伝性疾患であり、また重症である常染色体劣性アルポート症候群においても、RAS系降圧剤を早期から開始することで、末期腎不全になる年齢を約10年も遅らせることができる可能性があります。

私も佐賀県で常染色体劣性アルポート症候群の患者さんを、何例も治療してきました。この論文からは、診断が遅れることでRAS系降圧剤の作用が少なくなることが予想されるため、学校検尿など大事に診療し、早期発見、早期治療を目指す必要はあります。